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アスラクライン〈13〉 さくらさくら

stars だけど、それじゃ駄目なんだ。僕一人の力じゃ今までだってなにもできなかった。操緒や嵩月、朱浬さんやアニア、樋口や杏、それに佐伯会長たち――部長もだ。みんながいたから、なんとかやってこれたんだ。だから、“神”だってきっと倒せる。僕にはなんの力もないけど、それでも誰も犠牲にしないで世界を救う方法を絶対にあるはずだから――。

アスラクライン〈13〉(書影大)

新たな機巧魔神アスラ・マキーナ《黒鐵・改》を手に入れ、二巡目の世界へと帰還した智春たち。そこでは洛芦和高校の生徒たちが、洛高最大のイベントであるクリスマスパーティの準備に勤しんでいた。一見なにもかわらぬ平穏な日常。だが世界崩壊の予兆は、そのときすでに智春たちの世界にも現れ始めていた。非在化を始めた世界。虚空に浮かぶ機械仕掛けの巨大な腕。そして魔神相剋者アスラクラインと化した炫塔貴也が、自らの目的を果たすために建てた巨大な塔……。かつてない世界の危機を前に、操緒と智春が選んだ最後の決断とは……!?。

螺旋を描き、ときは巡る、せかいは巡る

“神”デウスという世界崩壊の原因ともいえる存在が明かされ、それを倒すために決意も新たに自分たちのいるべき世界――二巡目の世界へと帰還を果たした智春たち。クリスマスを直前に控え、学校全体をあげたパーティの準備で忙しい、けれど懐かしい日常をつかの間に味わいながらも、確実に訪れつつある崩壊のときに覚悟を新たにしていく面々。一巡目の世界でのイベントの数々は悲壮感にあふれいていただけに、彼らが本来いるべき世界へ戻り、最後の戦いの前のほんの短い時間ながらも、友人たちとこれまで過ごしてきたような騒がしく楽しい日常を、再び描くことで智春が守りたかったものはなんなのかというのを再認識させられますね。

科學部の部長でもあり、“神”打倒という目的は同じながらも、まったく異なる手段でもってそれを成そうとする炫塔貴也は、智春が抱いたような世界に生きるひとびとへの想いよりも、自らの願いへと天秤を傾け、そのために孤独で、他者からはただただ憎しみを向けられるような戦いを選択しました。結果として、彼は戦いに敗れ、その目的は智春へと譲らざるを得なくなるのですが、単体の戦力においては智春たちを優にしのぐはずの彼が、そんな敗北を喫しなければならなかった理由は、作中にも描かれ、智春自身が語っているように、自分だけで戦おうとしたからだったんでしょうね。悪魔の力と機巧魔神の力の両方を備えた魔神相剋者といえども、たった一人で世界を救おうなんていうのは傲慢。大事の前の小事としてあらゆるものを犠牲にし世界をやりなおすことで目的を達しようとした彼と、今ある世界を救い皆を救ってなお目的を達することを選んだ智春。覚悟の違いというか、ふたりの想いの向け方が、そのまま両者に力を貸すひとびとの戦いに直結していたような流れでしたね。

物語のクライマックスらしく、これまでの登場人物各個に見せ場を持たせつつ、定められた結末へとまっすぐに進んでいったような印象。ただ、見せ場を派手に描くことなく、それぞれが自らに定めた役割を淡々とこなすような各シーンは、やや駆け足気味な印象を覚えたりしました。対立していた塔貴也との戦いもあっさりした決着を見たし、ラスボスの“神”に至っては思った以上にあっけなく退場したような。あの巨大な存在を、あれだけで退けられたというのは少々疑問が残るのですが、それはまた別の語られ方をしたりするのかな。

エピローグもそれを汲んでか説明不足なのか意図的なのか、謎を抱えたまま完結したような感じが。智春の妹の和葉が、鳴桜邸へとやってくるという、役者を変えてまた1巻に戻るような流れ。彼女の前に現れた奏が手渡すトランクの中身が何なのかも気になりますが、そもそも智春たちのあの後が不明なのでもやもやする思いです。

奏が残され、智春と操緒がともに行方知れずというのは、奏にとっては皮肉な結末にも思えますね。せっかく結ばれたのに、その想いは未だ宙ぶらりん、逆に操緒の方は、かつてその身を捧げ智春の命を救い、そして今度はともに世界を救った。そして、最後の戦いの直前に彼の心に浮かんだ世界を救う以上に大切な操緒を救うという目的。それが結局叶ったのか叶わなかったのか、この奇妙な形になってしまった3人の関係の行方とともに気になることこの上ないですね。

救われ続いていくこの世界では、きっとまた様々な物語が紡がれていくのでしょう。そんな中に、彼らが幸せを得られたという、そんな片鱗でも感じられるような暖かなエピソードを、また読むことができるなら、うれしいですよね。

hReview by ゆーいち , 2009/11/22

アスラクライン 13
アスラクライン 13 (電撃文庫 み 3-28)
三雲 岳斗
アスキー・メディアワークス 2009-11-10

夜明け色の詠使い―黄昏色の詠使い〈10〉

stars ……そう。悲しいことじゃない。だって、想いはここにある。それさえなくさなければ、きっとまた会えるから。

クルーエルは消え、そして世界から名詠式そのものさえも失われた。世界中で混乱が広がる中、ネイトはアマリリスが残した手がかりをもとに、セラの塔へと向かう。ただ、クルーエルを取り戻す、そのためだけに。

世界を満たすふたりのうた。

ああ、これでこの物語も完結ですか。予定調和という言葉がこれほど似合う物語もないような。紡がれるうたのように、響き合ううたのように、いつか訪れるその終わりがついにやってきた、そんな印象ですね。

ネイトとクルーエル。前巻で永遠かもしれない別れを経、けれど、再会するという約束をし、最後の物語となる本巻では、ネイトは自身の言葉を違えないため、ただひたすらに前を見続け、クルーエルを求め続けます。彼と対を成すような存在のシャオが、誰を求めることもなく、ただ在るべき世界のために、在るべき名詠のために、行動していたのと対照的ですね。

お互いに譲れないものを持ち、決して揺るがないだけの強さを持ち、けれど、最後の最後に勝敗を分けたものは何だったのか。シャオがそこに生きる何ものでもなく、ただ自分の使命に殉じ、世界を愛し続けたのに対して、ネイトは世界よりも何よりも、たったひとりの大切な少女を、クルーエルをこそ求め、愛し続けましたね。そして、彼が最後に頼んだのは、神ともいえる存在のミクヴェクスやアマデウスの力ではなく、お互いの想いであり繋がりであったことが、どこまでも似通った、そして対照的なふたりを決定的に別つものだったのでしょうか。

そこに至るまでの戦いも、ひとびとの想いも、願いも、祈りも、ただただ透き通った透明な美しさに満ちていて、最終的に誰も彼もが祝福を受けるような流れになったのが、この世界の在り方の象徴のように思えますね。どれくらいの繰り返しの果てに訪れたこの結末なのか、けれども、この世界の在るべき姿を、そこに息づくひとびとが、作り上げていく、そんな未来を見たくなった、そこに夢を思い描いた、調律者たちの心に、ようやく共感が得られたような気がしますね。

全てが収まるべきところに収まり、在るべき姿を取り戻し、これからも果てしなく続いていく世界の中で、どこまでもどこまでも、幸せを携え、手を取り合い、共に歩んでいく、ネイトとクルーエルの未来に幸あれかし! 通してみればやっぱりどこまでも美しいという印象が残る、澄んだ物語でしたね。

そんな余韻に浸りつつ、氏の綴る新たな物語『氷結境界のエデン』にも期待したいですね。どうやら別の世界でありながら、根底にある部分は共通したものを持ってそうなので。次の物語がどんな音色を響かせるのか、楽しみです。

hReview by ゆーいち , 2009/08/23

鉄球王エミリー―鉄球姫エミリー〈第5幕〉

stars さあ!! 逃げ惑えっ!! ヴェルンストの雑魚どもっ!! これがラゲーネンの……『鉄球王』エミリーの戦だっ!!

ヴィルヘルミーネ率いる暴竜鉄騎兵を辛くも撤退させたエミリー。しかし、ヴィルヘルミーネはラゲーネン王国最後の砦となる河岸要塞を大兵力でもって包囲し、止めをささんとしていた。窮地に陥った王国を、そして何よりも己の手が届く者たちを二度と喪わないために、エミリーは決戦を決意する。鉄球姫と血風姫、ふたりの戦いの幕が上がる。

鉄球王よ永遠なれっ!

徹頭徹尾が熱いぜ熱いぜ熱くて死ぬぜな大戦争な最終巻。窮地に立たされた小国ラゲーネンと、その国を理想のために蹂躙しようとするヴェルンストのヴィルヘルミーネ。圧倒的な戦力差によって傾きつつある戦況を、かつての英雄エミリーと同じ名を持つ鉄球姫が覆すっ!

5巻という物語的には大ボリューム、とまではいかない冊数で展開した物語は、けれどそれをまったく感じさせないくらいの密度の濃さ。1巻で登場した破天荒な性格の戦う姫君、『鉄球姫』エミリーが、喪い、出会い、また喪い、戦って戦って、彼女の望む王の姿へ『鉄球王』へとその在り方を変えていく物語。彼女の挫折と成長、そして彼女の掲げる流された血と喪った命に裏打ちされた理想を叶えるための、エミリーの戦いの物語。運命と、国という実体の見えない何かに翻弄され続けたのは、か弱く戦う力を持たない少女でなく、ひたすら前に進み、自らで戦の最前線に立ち、その手で勝利をたぐり寄せつかみ取る、強く荒々しく、けれど王たる意志と資質を備えるまでに至った傷だらけの少女だったというわけで。

そうしてみると、最終巻、エミリーと共に戦った彼女の大切な人たちが、ことごとく生き抜いたというのも、彼女の意志が実現されつつあるのだということの裏付けに思えてきますね。『盾』の名を継いだグレンも、エミリーに付き従うセリーナも、そして彼らを支え、信じ祈ってきたひとびとも、皆が皆、この戦いを生き抜いたという結果。生温いとかそんな言葉、この戦いの中に入り込む余地があったのか。もちろん、あの激戦を生き残ったのは、エミリーたちの実力が何よりもであり、そこにほんの少しの幸運があったというだけの話でしょうが、それでも、エミリーが宣言したように、誓ったように、彼女が彼女の手の届くひとたちを死なせなかったというのが、これまで奪われ続けてきたエミリーにとっての何よりもの救いになったのではないかと思います。

彼女とともに、厳しい状況に立たされ、手痛く、絶望的な裏切りに晒されながらも、エミリーを守り続けてきたもうひとりの主人公ともいえるグレンの成長ぶりも見事。初登場時の未熟さが何よりも勝っていたかのような頼りない騎士が、ここまでの成長を果たすとは。グレンもまた、自身に誓った想いを、最後の最後まで違えることがなかったのだとエピローグで想像させられましたしね。

そして、そのエピローグが穏やかで平和でなんとも報われる終幕じゃないですか。血みどろの闘争を戦い抜いたからこそ許されるような日常。さりげなくラブコメな要素も見られたりと、番外編があるのならそんなコメディ中心の物語も読んでみたいと思わせるような魅力的なキャラたちによる幕引きでした。

ひたすらに戦場を駆け、戦いの中に生きてきた、エミリーにようやく訪れた平穏。このシーンが描かれた物語の完結を見ることができて、まさに感無量というところですね。新作も楽しみです。

hReview by ゆーいち , 2009/08/23

学校の階段〈10〉

stars 神庭幸宏。お前に俺から二つ名を送ろう。『茨の道』を進むお前に、敬意と激励を込めて――。

刈谷との階段レースに敗れた幸宏は、もはや目を背けることなどできなくなった内にある衝動に突き動かされるまま、再戦を望む。しかし、刈谷との再戦に全てをかけるかのような幸宏の態度は、彼に協力しようとする階段部の面々や、彼を案じる友人たちから孤立する結果となり……。そして、階段部の部員たちの与り知らぬ場所で進行する包囲網。決戦の日は近づいていく。

階段部が、大好きだ!!

階段レースという他者から見ればまるで無意味に思える奇抜な競技を、真剣に取り組むという異色で熱血で青春な物語もついに完結。通してみると、部長の九重ゆうこに強引に勧誘され、入部させられた、主人公・神庭幸宏の成長の物語でありましたね。

物語が進むにつれて、幸宏の中でふくれあがっていった衝動。それは、かつて先輩である刈谷が通った道で、他者には理解されることのない孤独な道を歩ませる原動力。『先』を求め、至ろうとする彼らが伸ばす手をかわし、あるいは決して手が届かないかもしれない「それ」の答えを知ろうとするかのような決着のための階段レースが最後に待っていましたね。今までのようなスポーツとして、熱さを描くような描写ではなく、これまで幸宏や刈谷が階段レースを通じて得ようとしてきた形のないもの、そして自分と向き合うかのようなものでしたね。

結局、刈谷が求道者のように孤独を隠し、けれど諦めることなく探し続けた「先」や、幸宏が孤立し、苦しみながら、けれど諦めることなく求め続けることを決めた「先」についての明確な答えは明かされませんでした。よく分からない正体ですが、年を重ね、様々なことを経験し、得ることができ、あるいは見えなくなるそれは、きっと、彼らの年代の誰もが心の中で描き、願い、求めるような、漠然とした夢のような、そして青春という二度とない貴重な時間を輝かせる宝のような何かなのかもしれません。大人になることで、見えなくなるそれはきっと、もう手が届かなくなったとしても、階段を上るように歩みを止めなければまた違う何かが上に見えているのかも。

幸宏の苦しみとかに共感できないと、彼の行動が何ともちぐはぐで、周囲に迷惑をかけまくる存在に見えてしまいますが、それでも幸宏を支え励まそうとする友人や、部員たち、そして彼に想いを寄せる女の子たちの姿を見ると、彼がどれだけのものを、この1年で積み上げてきたか分かろうというものです。ひとつの締めくくりとなる卒業式での幸宏の送辞と、刈谷の答辞。熱いレースもそうですが、こんなまっすぐな心の描かれ方もまた、本作の魅力であったと思います。

受け継ぎ、そしてまた先達と同じように後から来るひとたちへ受け継がせていく。それが伝統となるような懐の深い校風の学校と、その象徴のような階段部という部活。エピローグで既視感を覚えるような展開を見、そしてそれから始まる、新たな階段レースを舞台とした青春の物語の予感を抱き、きっとまた、誰かが熱い物語を紡いでいくのだと、そう確信しました。

「階段部が大好き」その一言に全てが詰まっている、素敵な青春のお話でした。

hReview by ゆーいち , 2009/08/09

学校の階段 10
学校の階段 10 (ファミ通文庫)
櫂末 高彰
エンターブレイン 2009-07-30
Amazon | bk1

ラノベ部〈3〉

stars 出逢って、いろんな思い出を共有して、別れて、たまにあいつ何やってんのかなーって思い出したりして――それって、現実の世界と物語の世界で何が違うの?

留学生のリアが加わり、さらに賑やかになったラノベ部。メンバーは増えても、やることは変わらず、相変わらずの雑談に読書に花咲かせる毎日。そんなある日、文香は龍之介と二人きりになった部室で、自分が抱いている気持ちの名前と意味を知る。そして……。

ここでシリーズ完結とは予想外でしたね。だらだらといつまでも続けられそうなネタなのに、ここであえて物語に幕を引くという意味は、あとがきにも書かれていますが、納得できる理由でもあります。

ラノベを中心としたいわゆるサブカルの今をネタにした作品だけに、この作品を1年後、2年後に読むというのはネタ的な部分ではやっぱり苦しいんでしょう。けれど、この物語の中でキャラクターたちが語って、思って、伝えあった物語というものに対する気持ちというものは、新鮮さを優先したネタのチョイスと相反するようにある種普遍的な価値観を持っているのではないでしょうか? ラノベ部という、理想的な空間と、理想的な部員たちに囲まれた、楽園のような優しい時間。ああ、こんな時間を誰かと共有できていればなんて夢想をしてしまうくらいに現実はままならないものですが、優しい物語で心が癒やされるなら、きっと明日も生きていけるのですよ、なんてね。

1巻でも文香に対する暦の気持ちという形でほのめかされていましたが、2巻の龍之介と美咲の恋バナあたりから、恋愛ネタの方面でも割と大きな展開を見せてくれたのが意外といえば意外。そして、そこに一定の決着を見せず、想像に委ねる感じで未来へ繋げてくれたのが爽やか。といっても、個々人のやりとりを見ていると、ラノベ部の中で唯一恋人として成立しそうなのは、やっぱり龍之介と美咲のふたりなんですよね。なんだかんだ、恋人と見れないといいながらも何かにつけて彼のことを考える美咲、ふたりの後輩に告白されつつも、美咲への想いを捨てきれず抱えたままの龍之介。ちょっとしたハプニングと、どちらかの踏み込む勇気さえあれば、それこそラブコメのようなハッピーエンドが迎えられるんじゃないかなとか思うんですががが。まぁ、その前に立ちはだかる障壁、文香とリアは黒化するとかなりの難敵となりそうではありますが。

楽しくラノベを読むという、そんな当たり前のことを当たり前に伝えるためのお話。たまにやってくる読まなきゃという義務感や強迫観念に満ちた暗い気持ちになったときなど、改めて読み直して、物語を読む楽しさというのを再確認するというのもアリかもしれません。

hReview by ゆーいち , 2009/07/26

ラノベ部 3
ラノベ部 3 (MF文庫 J ひ 2-18)
平坂 読
メディアファクトリー 2009-07
Amazon | bk1

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