とある飛空士への追憶

2008年8月8日

stars 願わくばふたりの物語に最良の結末を

一万二千キロの単機敵中翔破。未来の皇女たる美しいファナを後部座席に、シャルルは遙か彼方の目的地を目指す。空戦において、帝政天ツ上空軍の遥か後塵を拝するレヴァーム皇国。敵国にこの作戦は察知され、ふたりは絶望的な状況下で西を目指す。

うはは、素晴らしすぎる。

犬村小六の文章が、この作品の雰囲気とかっちりはまって、硬派で、けれどもどこか切ない余韻を残す物語に仕上がっています。これは良い。

達成至難の任務。けれど、背後に乗せたファナを、自らの願いとしても送り届けたいと感じるシャルルの思いが熱いです。身分違いなれど、その断絶を越えて、ファナの方から歩み寄ってくれたり、旅の途中のちょっとしたハプニングで、ひとときの距離感の忘我を覚えたり、そして、命がけの空戦の中で育まれていく感情と、わずか1週間にも満たない時間の中に凝縮された一生にも等しい波乱の物語でした。

そして、ラストの演出がまた心憎い。この物語で語られたふたりの旅の最後の演出は、この上なく美しいし、その締めくくりの言葉もまた美しい。

明かされないからこそ価値のある類の物語ですね。彼らのその後は、確かに続いていったであろうし、その謎に包まれた部分にこそ、幸せを見つけたという願いを込めたいです。ファナの足跡を辿れば、彼女が不幸でなかったことは想像できるし、その影に幾許かのシャルルの姿が人知れず見えていたらと願ってやみません。

蒼天、白雲、飛行機、悲恋、語られない歴史。様々な要素はあれど、それらが見事にかみ合って、素晴らしい一冊に仕上がったと思います。

ガガガ文庫は微妙にマイナーですが、だからこそ埋もれさせておくには惜しい逸品。というか、今後の作者買い確定かも。

hReview by ゆーいち , 2008/03/19