紅炎のアシュカ

このページは約 4分27秒で読めます。

stars 私は、魔王アシュバルドの、右手の小指の爪の先の化身だ。おまえとは違う――私は弱い。だから、理解できたんだ。友が、どうして、ああしたのか……。

「私はアシュカ。魔王アシュバルドの右手の小指の爪の先の化身だ!」
――かつてこの地上を荒らし回った《根絶者》アシュバルド。その化身を自称する少女アシュカは、《駆神人》の少年ラティス、《小妖精》のリルと共に、街から街へと旅を続けていた。他の化身たちと出会うために――。
人と精霊が共存する世界で、アシュカの奔放な物語が幕を開ける!
第3回『このライトノベルがすごい! 』大賞受賞作家、受賞後第2作スタート!

「魔王アシュバルドの右手の小指の爪の先の化身」 魔王の化身といえばスゴいはずなのに、そこに右手の小指の爪の先なんて言葉が付くだけでかなりスケールダウンしてしまう。そんな名乗りから始まる物語。

魔王の欠片であることを自称し、他の同類、仲間を探すことで自らの空虚を埋めようとするアシュカ。かつて魔王だったものの脅威をリアルなものとして生きている人間達に取ってみれば、妄言にしても看過できないそれを、大ごとに発展せず今まで旅をしてこれたのは、彼女自身がその言葉を裏付けるだけの強さを備えていないことと、共に旅をしているラティスやリルの無害さのおかげなんでしょうかね。

けれど、強さがないことが悲劇を生むこともある。この作品にしても、作者の前2作に比べればかなりライトな作風で、ときおりきつい言葉なんかも出てきていたんですが、とがったところのない、わりとよくある作品にまでストーリーのトゲを抜いてきたのかな、なんて思っていたら中盤の転機で度肝を抜かれてみたり。そういう流れをさっぱり予想していなかっただけに、ここから一気に物語の雰囲気が転調していくのを肌で感じましたね。力があれば回避できたはずの悲劇。けれど、それはかつての「魔王」なら何ら気にすることなく行っていた当たり前の行為。作中で対峙することになる、アシュカよりもずっと強大な同類の化身に相対するとき、彼女は自分に足りないと思っていた強さがどういうものなのかの一端を理解することができたのかもしれません。

自分が自分であるきっかけとなった、かつて魔王だったものの気まぐれにも似た決断。それがどんな答えを生むのかは、当の魔王本人にも分かっていなかったのかもしれません。強者には理解できない弱者の感情。ひたすら強大であり続け、並ぶ者のなかったアシュバルドが身を砕いて化身に託した問いかけの答え。それにたどり着けたのが、ほんのちっぽけな一握りの化身たちでしかないということも、悲劇だったんでしょうね。望んでいたはずの魔王としての復活さえも、ちっぽけなアシュカにとってみたら他に優先することが数多ある程度の目的で、彼女がそれまで生きてきた人との繋がりの中で生まれた価値観なのだとしたら、アシュカという存在は魔王の欠片たちの中でもとびきり人間寄りのイレギュラーとなるのでしょうか。仲間を求めつつ、その仲間が人にとって仇なす存在なら、心が欠けたままでもいいと、自分の答えを見つけるに至ったアシュカ。同類の仲間ではなく、彼女が今まで生きてきた繋がりの中で生まれた絆が、魔王という繋がりとは別の仲間となり、彼女の支えとなる。この先の旅路は漠然とした目標の形が定まったものの、より厳しい選択をつき続けられる茨の道となりそうです。

それでも、彼女の名が、名付け親に託された思いの通り、明日につながる希望そのものである限り、右手の小指の爪の先の化身などではなく、アシュカ自信として、彼女だけの未来をたぐり寄せていくのだと、そんな風に思えるお話でした。

デビューから3ヶ月連続刊行となりましたが、雰囲気的にはロゥド・オブ・デュラハンのダークさに引かれつつも、物語の先を読んでみたいという思い出は本作かなという感じです。

hReview by ゆーいち , 2012/12/09

紅炎のアシュカ

紅炎のアシュカ (このライトノベルがすごい!文庫)
紫藤 ケイ Nardack
宝島社 2012-12-10

    スポンサーリンク

    Trackback URL

    No Trackback to 紅炎のアシュカ

    Still quiet here.

    Comments are closed.