SHI-NO―呪いは五つの穴にある

2013年4月18日

stars 人を呪わば……あれ、墓穴が五つ?

前巻と次巻を続くかのような、閑話休題的なエピソード。

志乃ちゃんと僕の距離が縮まったりしたかと思ったら、真白ちゃんの乱入で微妙な空気が流れたり、何このラブ寄せ? エピソードがどこまでも救いがなく、後味の悪い結末が畳み掛けるように描かれているのに、それを語り、心情を解体していく彼らの何とも軽い空気よ。

てな感じで、呪われた、といわれる本「リゼィエの日記」を巡って起きたふたつの事件とよっつの死を巡る物語。誰もが持ち合わせている、自己愛と、他者へ注ぐ愛情のバランスと、ちょっとした巡り合わせの悪さが生んでしまった悲劇の顛末。
そして、主人公が志乃ちゃんへ抱いていた名状しようのない畏怖にも似た感情との折り合い、彼女の心への近づき。今までは志乃ちゃんを見守る保護者的な立場から、彼女が触れるあらゆる負の事象に対して、嫌悪や忌避を諭していた彼の、一歩前進した物語。

事件に関わったひとたちの感情の揺れ動きとかは、作中で主人公が語ったように、一般通念としての常識からはかけ離れたもので、異質なもの。ただ、それを生み出したのも人間であり、感情に基づき展開していったことが、理解できても納得できないというジレンマを生んでいる感じ。愛情の歪んだ側面とか、善意の裏に潜んでいる無自覚な悪意とか、人間の二面性、物事を見る角度を変えたら表出してくる別の姿とか、一筋縄ではいかない、結末の苦みは、決して良い後味とは言えないですねえ。

そうして、志乃ちゃんへ自分から近付いて、ともに在ることを決意した主人公は、今後彼女が巻き込まれ、関わっていこうとする事件の中で、どんなふうに変わっていくのでしょうか?

hReview by ゆーいち , 2007/07/05

SHI-NO―呪いは五つの穴にある

SHI-NO―呪いは五つの穴にある
上月 雨音
富士見書房 2007-06