境界線上のホライゾン〈1・上〉

2008年9月26日

stars 君はどちらだ。世界を揶揄して喜ぶだけの批評家か、それとも、楽しむ者か。それとも、世界を作りに行く者か。

“重奏統合争乱”から160年。重奏世界の崩壊をきっかけとした争いに敗北した神州は、国土のほとんどを各国により分割統治され、航空都市艦・武蔵を唯一固有の領土として、各国の境界線上を航行していた。聖譜に従い、かつての歴史を繰り返してきた世界。しかし、その歴史記述が1648年をもって途絶え、世界の終わり・末世が訪れるという空気が広がっていた。果たして、1648年を最後に世界は終わるのか? 様々な思惑が絡みあいながら、未来を切り開くために戦う学生達。これは、再び天を目指すために歴史の再現を行う人々が織りなす“創世記”。

CITYシリーズ、AHEADシリーズに続く、川上稔の描く新たな物語・GENESISシリーズがいよいよ開幕。

今回も重厚長大な設定に裏打ちされたような世界観で、「1の上」とか訳の分からない巻数が付きつつ、設定資料が満載。これを見ながら読めというのですね、分かります。

そんな感じで、川上稔作品に触れたことないと、まずはこの設定の膨大さに圧倒され、挫折する可能性がなきにしもあらずといった風情ですが、そんなのは『終わクロ』で通過済み。シリーズ最初っから500ページ突破しつつ、その大部分が世界観の描写などに費やされている本巻も楽しく読ませていただきました。

もう物語のファーストエピソードから非常に盛り上がっていますね。いきなり世界規模の危機が起きているというか、今回の事件の黒幕によって明かされた事実が、微妙な均衡の上に成り立つ学園国家間に衝撃を走らせ、さらに主人公・葵トーリの物語とも深く関わってくるという。先々まで見越した伏線が膨大に張られて、こりゃまたそのうち読み返さないと置いて行かれるぞ的な感じさえします。

お話的には、下巻でようやく主人公達が動き出すという感じですが、上巻でも脇役あるいはかつての主役達の活躍が熱い熱い。オヤジ達が格好良いのは川上作品のお約束的でもありますが、今回もそういったオヤジ達の熱い戦いが繰り広げられてます。でも、これ、前哨戦……? とにもかくにも下巻が楽しみ。いきなり合わせて1000ページ超えそうな出だしですが、これでこそ、という作品なので続きを全力で待ちたいですね。

妄想的な考察。AHEADシリーズから遥か未来が舞台のGENESISシリーズですが、前シリーズの名残がそこかしこに感じられますね。固有名詞の数々だったり、「Tes.」や「Jud.」の応答の言葉だったり、重奏世界って概念空間の拡張? とか、八大竜王、全竜、とか前作のキーワードが形を変えて現れたり、そもそも舞台が神州世界対応論によって各国が割り当てられているっぽいなど、『終わクロ』知っていればさらににやにやできますね。なんというか、こういう無闇矢鱈に気合いの入った設定が織り込まれたお話が、なんとも川上稔作品らしくて非常に楽しいです。今回も驚くべきことにラストまでのプロットがほぼ完成しているとのこと、設定資料だけでA4・780ページとか、おかしいんじゃね的な練り込み乃本作ですが、まさに予想に違わぬ、それ以上を期待できるだけの出だし。これまた楽しみなシリーズが始まりました。

hReview by ゆーいち , 2008/09/15

境界線上のホライゾン 1上

境界線上のホライゾン 1上 (1) (電撃文庫 か 5-30 GENESISシリーズ)
川上 稔
アスキー・メディアワークス 2008-09-10